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プロダクト戦略

ロードマップの作り方と優先順位づけの実務

アウトカム起点でロードマップを組み立て、RICEスコアで優先順位をつける実務手順を、数値例とつまずきやすい点とともに整理します。

Kreodo Product Academy 編集部 約7分
要点

ロードマップは機能の予定表ではなく、達成したいアウトカムの順序表として組み立てると機能します。優先順位づけには Reach×Impact×Confidence÷Effort(RICE)のようなスコアリングモデルが有効ですが、スコアは意思決定を助ける道具であり、決定そのものを代替するものではありません。本稿では前提の整理から採点手順、数値を使った適用例、そして運用でつまずきやすい点までを順に解説します。フレームワークの相性は事業段階によって変わるため、一次情報も合わせて確認してください。

前提 — ロードマップは「何をいつ作るか」ではなく「何を達成するか」の表

四半期ロードマップに機能名だけが並んでいる状態は、優先順位づけ以前の問題であることが多いです。機能の予定表は、いつ何を出荷するかという約束にはなりますが、なぜそれを選んだのかという判断根拠を残しません。結果として、途中でリソースが足りなくなったときに何を削るべきか誰も説明できなくなります。

本稿が前提とするのは、すでにプロダクト戦略の骨格ができていることです。戦略とロードマップの関係が曖昧なまま優先順位づけの手法だけを導入すると、スコアは高いが戦略と無関係な施策が上位に来る事態が起こります。戦略・ビジョン・ロードマップの接続についてはプロダクトビジョン・戦略・ロードマップの違いと接続で整理していますので、順序が曖昧な場合はそちらを先に確認してください。もうひとつの前提は、候補となる施策のリストと、それぞれについてある程度の見積もりができるチームの存在です。見積もりの精度は事業段階によって大きく異なり、新規事業の初期段階では次に説明するConfidenceの値が総じて低くなります。

手順 — RICEスコアで優先順位をつける5つのステップ

RICEはIntercomのプロダクトチームが社内向けに整理し公開した手法で、Reach(到達数)・Impact(影響度)・Confidence(確信度)・Effort(工数)の4要素から一施策あたりのスコアを算出します。

1. 候補施策を洗い出す

顧客からの要望、サポート問い合わせ、営業からのフィードバック、内部のアイデアなど出所を問わず一覧化します。この時点では取捨選択をせず、粒度をそろえることだけを意識します。

2. Reach(到達数)を見積もる

一定期間(多くの場合四半期単位)にその施策の影響を受けるユーザー数や利用回数を見積もります。単位を「人」で統一するか「セッション」で統一するかはチームで事前に決めておく必要があります。

3. Impact(影響度)を設定する

ひとりのユーザーに対する影響の強さを段階評価します。Intercomが公開した元の尺度では、3=非常に大きい、2=大きい、1=中程度、0.5=小さい、0.25=最小、という目安が使われています。この尺度は組織ごとに調整して構いませんが、途中で変えるとスコアの比較可能性が失われます。

4. Confidence(確信度)を設定する

ReachやImpactの見積もりにどれだけ根拠があるかをパーセンテージで表します。定量データに基づく見積もりなら高く、勘や少数の意見に基づく見積もりなら低く設定します。Confidenceを甘く見積もる運用は、後述するつまずきやすい点の代表例です。

5. Effort(工数)を見積もり、スコアを算出する

実装・検証・ローンチにかかる工数を人月などの単位で見積もり、次の式でスコアを算出します。

RICE = (Reach × Impact × Confidence) ÷ Effort

適用例 — 数値で見るRICEスコアリング

以下は説明のための例であり、実際の数値ではありません。あるSaaSプロダクトで3つの施策候補を採点したとします。

施策A オンボーディング簡略化
  Reach 1200人/四半期・Impact 2・Confidence 80%・Effort 3人月
  RICE = (1200 × 2 × 0.8) ÷ 3 = 640

施策B レコメンド機能の追加
  Reach 400人/四半期・Impact 3・Confidence 50%・Effort 4人月
  RICE = (400 × 3 × 0.5) ÷ 4 = 150

施策C 通知設定の細分化
  Reach 2000人/四半期・Impact 0.5・Confidence 90%・Effort 1人月
  RICE = (2000 × 0.5 × 0.9) ÷ 1 = 900

この例ではC・A・Bの順にスコアが高くなります。到達数が大きく工数が小さい施策は、ひとりあたりの影響が小さくてもスコアが上がりやすいという、RICEの性質がよく表れています。

確認 — スコアだけで意思決定していいか

スコアの順位をそのままバックログの実行順にする運用は避けたほうが安全です。ただし、これはRICEが機能しないという意味ではありません。RICEは似たような性質の施策同士を比較するときに強く、探索段階の0→1の賭けと、改善段階の細かな施策を同じ表で比較するとスコアの意味が崩れます。前者はConfidenceの根拠がそもそも乏しく、後者はReachの母数が安定しているためです。

もう一つの限界は、戦略的に重要でもスコアが低く出る施策の扱いです。競合の動きに対応するための施策や、将来の技術的負債を防ぐための施策は、短期のReachやImpactでは低く評価されがちです。スコアはあくまで比較のたたき台とし、最終判断はプロダクトの責任者が戦略に照らして下すという運用が現実的です。

つまずきやすい点 — RICE運用でよくある落とし穴

採点者ごとにImpactやConfidenceの基準がずれていると、スコアの絶対値に意味がなくなります。採点前に基準の擦り合わせをしておく必要があります。Reachの単位が施策ごとに人・セッション・収益と混在しているケースも見られ、この場合はスコアの比較自体が成立しません。

Confidenceを「下げると施策が通らなくなるから」という理由でかさ上げする運用も珍しくありません。これは採点の目的を見失っている状態です。スコアが僅差で並んだときに、声の大きい関係者の意見で最終順位が決まってしまうケースもあり、この場合はスコアリング自体が形骸化しています。

次の一歩

スコアリングで上位に来た施策は、そのままバックログのチケットにするのではなく、達成したいアウトカムを一文で書き添えたロードマップの項目として整理します。四半期ごとに見直し、Reachの実績値とImpactの見立てが合っていたかを振り返ると、次回以降のスコアリングの精度が上がります。優先順位づけの前提となる指標設計についてはNorth Star指標の設計と運用で扱っていますので、あわせて確認してください。

参考文献

  1. Sean McBride. "RICE: Simple prioritization for product managers." Intercom Blog, 2016.
  2. Itamar Gilad. "How to Prioritize: Confidence, not just Impact and Effort." itamargilad.com.
  3. Marty Cagan. "INSPIRED: How to Create Tech Products Customers Love." Silicon Valley Product Group, 2nd Edition, 2017.
  4. Melissa Perri. "Escaping the Build Trap: How Effective Product Management Creates Real Value." O'Reilly Media, 2018.

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